2017/10/18

アクション

マトリックスパワータグが1位から4位までを独占する形で終了した、Jプロツアー第21戦「おおいたサイクルロードレース」。

マトリックスパワータグが圧勝したため、どうしてもそちらにばかり目が奪われがちだが、このレースで主役だったのは、間違いなくこの夏に世界との差を思い知らされたU23の選手たちだったと感じている。

宇都宮ブリッツェンの雨澤毅明、小野寺玲、岡篤志。そして主催者推薦枠での出場となったJAPANナショナルチームの山本大喜、石上優大の5人は、U23版のツール・ド・フランスと言われる「ツール・ド・ラヴニール」に日本代表として出場。また、石上を除く4人はその後の世界選手権にも出場し、同年代の世界トップクラスの選手たちと自分たちとのレベルの違いを目の当たりにしてきた。

そんな彼らが、今後再び世界のトップレベルで走ろうと思うのであれば、今よりもさらに強くなって、現チームよりも上のカテゴリーのチームにステップアップの移籍を果たす以外に道はない。そして、そのために残された時間は、我々が思うよりも、遥かに短い。

U23日本代表でエースを務めた雨澤が、Jプロツアー第19戦「輪島ロードレース」で優勝した後に語った言葉が、全員の気持ちを代弁しているだろう。

「日本国内で緩いレースをしていたらいつまで経っても世界との差は埋まらないし、せっかく欧州遠征で強くなって帰ってきたのに弱くなってしまう。そうならないためにも、自分からレースを厳しくしていきました」

そんな中で迎えたJプロツアー第21戦「おおいたサイクルロードレース」。

U23の5人は、積極果敢にアタックを仕掛けて逃げに入れば率先して集団をけん引し、メイン集団からは追撃のアタックを仕掛け続けた。

再び世界の舞台に立つために、自ら「アクション」を起こし続けたのだ。

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photo(C):Nobumichi.Komori/HATTRICK COMPANY

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一方のマトリックスパワータグは、言わば「リアクション」の戦い方だった。

逃げ集団に入った佐野淳哉とアイラン・フェルナンデスは積極的にローテーションに加わらず、のちにメイン集団から先頭に合流したホセビセンテ・トリビオと土井雪広もレース終盤まで待ちの姿勢を貫いた。

その事情は、痛いほど分かる。トリビオとフェルナンデスは「助っ人外国人選手」だ。目に見える結果を残さなければ自身の契約が危うくなる。世界の舞台を経験し既に目標を果たしたとも言える佐野と土井も、名より実をとるのは自然の流れだと思うのだ。

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結局、今回のアクションvsリアクションの争いは、リアクションが完全勝利した。

アクションを起こし続けたU23の5人が、リアクションを跳ね除けるだけの強さがなかっただけのこと、と言ってしまえばきっとそうだ。

だが、この日のレースは7人の逃げができた段階で、雨澤や山本が集団を抑え込む動きをしてしまえば、その段階で勝負は逃げメンバーに絞られて終了のレースだった可能性が高い。

さらに強くなって再び世界を目指そうとするU23の選手たちにとって、そんな展開のレースから得るものが果たしてあるだろうか? さらに強くなることができるのだろうか?

彼らはきっと、「NO」と考えた。

だからきっと、「アクション」を起こし続けたのだ。

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2017/10/04

JPT残り4戦の先にある未来を示すこと

2017年のJプロツアーも残すところ、あと4戦となった。

<現在のチームランキング上位3チーム>

1位 マトリックスパワータグ 5,328P

2位 宇都宮ブリッツェン   3,650P

3位 シマノレーシングチーム 2,968P

現時点で、宇都宮ブリッツェンはマトリックスパワータグに1,678Pの差をつけられており、残り4戦のうち3戦がレースレイティングAAAもしくはAAAAということを加味しても、逆転するには厳しいポイント差であることは間違いないだろう。

今シーズンのJプロツアーは、マトリックスパワータグにいいようにやられてしまっている感は否めない。

しかし、宇都宮ブリッツェンが8人フルメンバーで出場できたのが宇都宮での開幕2連戦のみということを考えると、最低限のラインで、魅せる走りはできているのではないかと感じている。

勝負に「たら・れば」がないのは重々承知の上での話になるが、増田がいれば、U23組がいれば、マトリックスパワータグにここまでの独走を許すことはなかったと思うのだ。

また、今シーズンを常に数的不利の状況で戦ってきたことが、チームの底上げにも繋がったと感じている。

現在の個人ランキングはこうなっている。

<マトリックスパワータグ>

1位 ホセビセンテ・トリビオ 2,079P

4位 吉田隼人        1,053P

6位 田窪堅次         882P

7位 アイラン・フェルナンデス 860P

12位 佐野淳哉         699P

13位 土井雪広         660P

45位 安原大貴         253P

115位 向川尚樹         61P

131位 中川智          47P

<宇都宮ブリッツェン>

9位 雨澤毅明         808P

11位 鈴木譲          776P

14位 飯野智行         637P

15位 馬渡伸弥         634P

16位 小野寺玲         623P

22位 岡篤志          459P

38位 増田成幸         300P

40位 阿部嵩之         289P

137位 鈴木真理         40P

誰か1人が傑出している訳ではなく、全員が満遍なくポイントを獲得している点をまず、個人的には評価したい。

加えて、トップ10に雨澤しか入っていない状況で、チームランキング2位をキープしているのも、評価したい点だと感じている。

この結果は、今シーズンのJプロツアー全戦に出場している鈴木譲・飯野・馬渡の3選手が数的不利の状況でも諦めることなくレースを展開し、優勝は飾れなくとも安定したリザルトを残して、しっかりとポイントを獲得してきたことが、とにかく大きい。

特に、エース格の選手がいればアシストに回ることが多くなる飯野・馬渡の両選手が、エース格不在時に、しっかり勝負に絡む走りができたのが、チームの底上げにつながったと感じている。

そこで注目したいのが、U23組が合流し、フルメンバーに近い状態となって迎える残り4戦を、どう戦ってくれるのかということ。

本来の状態に近い形となった時に見せる戦いが来シーズンにつながるものでなければ、本当の意味でチームの底上げができたことにはつながらない。

ランキング云々ではなく、チームの未来を示す走り、そしてこの4戦に限っての結果を残してくれることを、心底期待している。

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2017/09/21

数字では見えない成長と進化

数的不利の状況で、数少ないチャンスをものにして勝利を目指したJプロツアー第15戦秋吉台カルストロード。

しかし、結果は常に数的有利を保ったマトリックスパワータグにワンツースリーフィニッシュを決められ、完敗だった。

それでも、この状況ならではの収穫があったと思いたい。

それは、仮にフルメンバーであったならアシストに回ることが多い飯野智行と馬渡伸弥が、自身の勝利のために考え、そして走っているということ。

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目に見える数字には残ってはいないかもしれないが、選手は成長し、チームは確実に進化しているはずだ。

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2017/09/13

忘れていた「約束」

復帰してくれたことが嬉し過ぎて、約束をすっかり忘れていた。

それは昨年9月、Jプロツアー第18戦「まえばし赤城山ヒルクライム」で落車し、骨挫傷を追った増田成幸と交わした約束のことだ。

増田はこれまでも、9月に負傷をすることが多かった。この時も良い状態で来ていたにも関わらず、またもや9月に負傷してしまったのだ。

「やっぱり、9月には何かありますよね」

と言う増田に対し、

「本当、そうだね~。来年は9月に入ったら真っ先に“9月だから気を付けようぜ!”って言うわ」

と言っていた自分。

なので、今回の増田の落車は、自分にも責任があると勝手に思うことにする。

そして、またプロトンに帰ってくることを信じ、待っている。

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2017/09/06

不死鳥の帰還

スタート台に姿を現した不死鳥は、ほんの一瞬、笑顔を見せた。

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ジリジリとするスタート前の緊張感を楽しむかのようなその表情は、戦いの舞台に戻って来られたことを素直に喜んでいるかのようだった。

20分13秒6。

復帰レースを走り終えた増田成幸のタイムは、昨年に記録した自己ベストと比較するまでもないものだった。

しかし、増田はレース現場に帰ってきた。今は、その事実だけでいい。

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僕らは知っている。

これまでも、彼が一歩一歩、着実にその階段を上がってきたことを。

だから、確信している。

これからも、彼が一歩一歩、着実に復帰への階段を上がっていくことを。

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2017/08/02

ベテランと成長

13戦「やいた片岡ロードレース」を終え、Jプロツアーは1カ月の中断期間に入った。

これまでのシーズン前半戦を振り返ってみると、U23世代の雨澤・小野寺・岡の3選手の「進化」と「躍進」が光った。

それは、今季ここまでの2勝を挙げているのが雨澤と小野寺ということからも分かる。

だが、シーズン前半戦のMVPを挙げるとすれば、個人的には鈴木譲しかいないと思っている。

鈴木真理キャプテンと絶対的エース増田成幸というベテラン2選手を欠く中、中堅・若手選手を導いてきたのは間違いなく鈴木譲だからだ。

自身の理想の走りを黙々と追い求めることに集中したいタイプ。

自分はこれまで、鈴木譲に対してそんなイメージを持っていたし、今でもその基本性格は変わらないと思っている。

理想の走り、理想のレース展開、そして理想の勝ち方を成し遂げるために、余計だと思うものはすべて排除して真摯に競技に向き合う姿は、ある意味で修行僧のように見えることもあった。

しかし今シーズン前半戦、鈴木譲は修行僧の如く競技に向かう姿勢は残しつつも、前にも増して中堅・若手選手とフランクに話す場面が増えたように思う。

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自分よりも年上のベテラン2選手がいない現状を受け入れ、自身の中で消化し、果たすべき役割を理解した上での行動。ベテランとなった選手が、若い頃とはまた違った「成長」をしていると感じる瞬間だ。

若手選手が「進化」するのは、その周りの環境や伸びしろも含めて、ある意味で当然と言えば当然のことだと思う。

だが、ベテランが「成長」するには、何よりも自分自身が変わろう、変われるという意志を持つことが必要な気がしている。

今シーズン前半戦で鈴木譲が見せた「成長」は、イレギュラーなチーム事情があったからというのは間違いない。

だが、本人にその気がなければ「成長」の機会は生かされることもなかった。

自分は、ベテランが「成長」するチームは強くなる、と思っている。

だから、鈴木譲の「成長」を見て、宇都宮ブリッツェンは今シーズン、まだまだ強くなると確信している。

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2017/07/26

情報配信速度とメディア露出

ロードレースチームの話題ではなくなるが、先日、シクロクロスチーム小坂光選手のインタビューを読む機会があった。

詳細は[こちら

その中で、広報スタッフとして帯同する自分に対しての記述もあった。

確かに自分は、レース現場でのチーム広報を担当するオフィシャルメディアスタッフとして、「速度」に拘った情報配信を意識している。

チームの地元である栃木県・宇都宮市から遠く現地で応援しにくい場所でのレースや、ストリーミングなどのリアルタイム中継がないようなレースでは特に、ファン・サポーターが入手できる情報量が圧倒的に少ない。

そのため、レース後できるだけ早くレースレポートや監督コメント、優勝した際は勝者コメントを作成してライブレポートに反映させ、選手たちの頑張りがファン・サポーターに届くように努めている。

だが、「速度」に拘るのは、そのためだけではない。

自分としては「メディア露出」を意識するからこそ、「速度」に拘っている面もあるのだ。

チームを運営していく上で、メディア露出はスポンサー継続や新規獲得の生命線だ。

週末のレース結果が、週明け月曜日の新聞紙上(場合によっては当日夕方~夜のテレビニュース)に掲載になれば、ロードレースやシクロクロスという競技を知らない大多数の一般読者(視聴者)に対して格好のPRになる。

だが残念なことに、ロードレースもシクロクロスも媒体社の記者さんが常に張り付いて取材をしてくれるほどの市民権は、栃木県であってもまだ得ていない。

こちら側(チーム)からレースレポート・監督コメント・写真など必要な素材を一式揃え、媒体各社に配信して初めて、掲載してもらえるかどうかの土俵に上がれるのが現状だ。

ただ、素材を一式送ったからといって、必ず掲載されるとは限らない。そこから、さらなるセレクションがあるのだ。

まず最初に、チームの成績が良くなければ情報的に掲載する価値がないと判断されることがある。

もっともこの点に関しては、今の宇都宮ブリッツェンは常に着に絡むレースができているので、さほど問題になることはないと感じている。

今、それよりも重要なのは、配信した素材一式が「いつ」媒体社の担当に届くかということだ。

ご存知の通り、新聞であれ雑誌であれ電波であれ、媒体には必ず「締め切り」というものがある。自分も媒体社に勤務していた時は、この締め切りと常に格闘してきた。

特に、毎日締め切りが訪れる新聞や電波ニュースなどの現場は戦場だろうなと思うのだ。

その中でも中央紙と呼ばれる新聞社の支局に関しては、原稿を作成し、デスクのチェックを受け、本社に原稿を送り、組版をし、入稿するという行程を考慮すると、支局での原稿締め切りが地方紙に比べ圧倒的に早い。

自分の中では、各支局の地方面の掲載枠決めに間に合い、記者さんが心に余裕を持って素材を受け取って記事を書けるリミットは「18:00」が妥当なところだろうと判断している。

余裕がない時に素材をもらっても、よほどのこと(優勝などの好成績)がない限り触手が伸びない現実を、こちらも媒体社での勤務系経験上、承知しているからだ。

少しでも余裕を持って素材を受け取ってもらい、チームの活躍を掲載してもらってメディア露出を獲得したいからこそ、情報配信の「速度」に拘る。

そして、情報は広く一般に知れ渡ってこそ、初めて価値が生まれる。

そんなことを常に考えながら、オフィシャルメディアスタッフが業務に取り組んでいることを知ってもらえれば幸いだと思っている。

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2017/07/20

初勝利

「自分としてはやっと勝てたなぁという感じですし、大きな驚きもなければすごくうれしいという感情もないです」

Jプロツアー第9戦JBCF石川サイクルロードレースでプロ初勝利を収めた雨澤毅明が、レース後にコメントを求めた際に語った言葉。

そう、まさに「やっと勝てた」というのが正直なところだろう。

かねてから実力は申し分なかったし、勝つチャンスというのはこれまでもあった。

しかし、なかなか勝利を収めることはできず、勝つことの難しさを嫌というほど味わってきた。

そんな中でやっとつかんだプロ初勝利は、誰もが一番厳しい局面で攻撃を仕掛けて飛び出し、独走に持ち込むというロードレースで最も美しいとされる勝ち方だった。

そしてこの勝ち方は、病気療養中の絶対的エース増田成幸が得意とする勝ち方でもある。

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photo(C):Nobumichi.Komori/HATTRICK COMPANY

多くのファン・サポーターの間でも話題になったフィニッシュのガッツポーズについて尋ねると、雨澤は「増田さんへのリスペクトです」と冗談ぽく語ったが、強ち冗談でもないだろうと感じている。

自身が勝つことの難しさと格闘している時期に、多くの勝利を収めてチームを牽引してきた増田。

そんな彼がチームを離脱せざるを得なくなり、その穴を埋めることを期待される中で、ますます勝つことの難しさ、そして宇都宮ブリッツェンで勝つことの大切さを痛感していたのではないかと思うのだ。

あのガッツポーズは、だからこそ出たものだったのではないかと感じている。

冒頭のコメントに続いて「やっと勝てて、選手として最低限のことができたという気持ちの方が強い」と語った雨澤。

2勝目は、果たしてどんなガッツポーズでフィニッシュラインを駆け抜けてくれるだろうか?

イメージトレーニングは完璧にできているようだ。
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@那須高原ロングライド2017

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2017/07/05

シビアな世界の入口で

どんなスポーツであってもプロの世界に入ってくる選手というのは、そこに至るまでに何回もふるいにかけられ、その度に生き残ってきたある種のエリートだ。

しかし、そんなエリートであっても、容赦なく優劣がつけられる。

プロとは、そんな世界でもある。

結果が出なければ、翌年の契約を失うのは当然。

プロスポーツの世界は、本当にシビアだ。

エリートたちが集まったプロスポーツの世界で、なぜ優劣がつくのか?

そもそも持っているフィジカル的資質が大きく違う、ということはもちろんあるだろう。

日々のトレーニングで埋められる差と埋められない差は間違いなくあり、それが決定的な優劣につながる。

フィジカル的資質は残念ながら、誰もに平等に与えられているものではない。

同時に、肉体的資質は十分なのに、なかなか結果を出せずにいる選手も多い。

あくまで個人的な感覚ではあるが、そういった選手たちには共通している点があると感じている。

それは「向上心」「探究心」「柔軟性」「好奇心」などの言葉で置き換えられるのだと思うが、とにかくメンタル的な資質の部分。この部分が明らかに劣っていると感じることが多いのだ。

この資質もまた、誰もに平等に与えられているものではない。しかし、フィジカル的資質と異なる点は、差を埋められる余地が多分に残されているということではないだろうか。

かなり前置きが長くなったが、それには理由がある。

今回取り上げる選手、馬渡伸弥は宇都宮ブリッツェンに加入後、まさにこのメンタル的資質の部分で壁にぶつかったと感じたからだ。

高校時代から頭角を現してその年代の日本代表にも選出。進学した大学は強豪校の鹿屋体育大学と、バリバリのエリート街道を進んできた馬渡は、フィジカル的資質という部分で見れば幾多もの「ふるい」をくぐり抜けてきたと言える。

だが同時に、これまでエリート街道を歩んできたことが、彼のメンタル的資質で言うところの「柔軟性」を鈍らせたのではないだろうか。

宇都宮ブリッツェン加入後、馬渡はチームトレーニング以外では一人で練習することが多かったという。これまで行い、結果を残してきたやり方を続けていればプロの世界でもやっていける。そんな考えがあったのではないかと思う。

加えて、馬渡の真面目な性格も災いした。

“誰からも憧れられるプロ選手になった以上、何でも自分で考え、行動し、結果を出していかなければいけない”

“まずは、チームのためにきっちり仕事をする”

そういった馬渡の思考も、次第に「柔軟性」を鈍らせる要因になったのではないかと感じている。

そんな馬渡に突きつけられた結果は、残酷だった。

限られた人数での出場となり、各々が自身の持ち味を出すことが最優先となったツール・ド・熊野、さらにその後のJプロツアー那須2連戦でもDNF。

「柔軟性」を欠いたメンタル的資質に引きずられるように、フィジカル的資質の輝きも見られなくなってきていた。

“このままだとマズい。プロとしてシビアな判断を下されるかもしれない”。自分でさえ、そんなことが思わず浮かんでしまう状況とも言えた。

しかし、このままではマズいと感じていたのは自分だけではなかったようだ。

手を差し伸べたのは、自身も奇跡の復活を目指す鈴木真理キャプテン。Jプロツアー那須2連戦の直後から、馬渡と一緒に積極的にトレーンングを行うようになったのだ。

日本、そしてアジアの頂点を極め、今もなお現役選手として復活を期す鈴木真理の、長年に渡るプロ生活を支えてきたメンタル的資質、そして豊富な経験に裏付けられたトレーニングによって、馬渡の鈍り始めていた「柔軟性」を含めたメンタル的資質は次第に冴えを取り戻し、引きずられていたフィジカル的資質も輝きを取り戻し始めた。

その後の結果は、皆さんもご存知の通り。

年に一度のビッグレース、全日本選手権では残り2周回でDNFとなってしまったものの、これまで見せていた走りとは大きく異なる走りで変化の片鱗を見せた。

そして、迎えたJプロツアー第8戦「西日本ロードクラシックDay-2」。

馬渡は序盤から積極的に逃げ集団に入り、そのまま逃げ切り。最後のスプリントはかけ出しの番手の悪さが響いてしまったものの、3位とプロ初の表彰台を獲得した。

これまでいくつものプロスポーツを取材してきて、夢半ばで華やかな舞台から去っていかざるを得なかった数多くの選手たちを見てきた。

そんな選手たちと相通じるものを、少し前の馬渡は感じさせていた。

しかし、今はそう感じることも少なくなった。

もちろん、まだ「完全に」とは言えない。あくまで少なくなった程度、きっかけをつかんだに過ぎない。

そのきっかけを完全に自分のものにすることができるかどうか。

馬渡伸弥が本当の意味で「プロ」になれるかどうかが楽しみだ。

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2017/06/28

全日本選手権

毎年、フィニッシュの瞬間を見ていて感じることがある。

この一年間、もっと、やれることがあったんじゃないだろうか?

ただ一人の勝者以外のすべての選手が、きっとそう思っているんだろうな、と。

勝者以外のすべての選手は、それぞれ違いはあれども、少なからず「悔い」を持って会場を後にする。

同時に、“来年こそは!”という闘志を胸に秘めて…。

それが「全日本選手権」というレースなのだ。

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«次世代のエースが得た「自信」と抱える「焦り」